「勇者フルートの冒険・番外編 〜シルの町の戦い〜」        朝倉玲・作  
エピローグ 夕焼け

ポチは背中にフルートとゼンを乗せて、シルの町めざして飛んでいました。
夕焼けが空一面を染め、雲を赤に金色に輝かせています。ひんやりした空気が夜の気配を伝えてきます。

空に飛び立ってから、フルートはまた黙って何かを考えていましたが、やがて後ろを振り向くと、ゼンに言いました。
「ぼく・・・やっぱりお父さんたちに話すことにするよ。北の大地の戦いのことも、雪オオカミが追ってきたことも、サイクロップスやデビルドラゴンのことも・・・」
ゼンは目を丸くしました。フルートは、雪オオカミのことはもとより、北の大地での戦いのことも、これまでお父さんやお母さんにまったく話していなかったのです。
「まあ、俺もその方がいいと思うが、どういう心境の変化だ?」
とゼンに聞かれて、フルートはちょっと目を伏せました。
「ぼくたちの戦いは、どんどん激しくなってるだろう? 北の大地では、本当にもう少しでぼくたちはみんな死ぬところだった。お父さんたちに話せば絶対心配されると思ったから、言わないでいたんだけどさ・・・でも、危険なのはしかたないんだよね。ぼくたちはデビルドラゴンと戦うように運命づけられてるんだから。・・・・・・ただ」
フルートはまた目を上げてゼンを見ました。
「ぼくは、お父さんたちにこう話そうと思うんだ。確かに、ぼくは金の石の勇者だから、危険なことが次々起こる。でも、ぼくにはゼンとポチがいるんだ、って。ぼくたちは互いに助け合えるし、泉の長老や天空王やポポロたちだって力を貸してくれる。そして、なにより、この金の石がぼくたちを守ってくれている。それでもお父さんたちはやっぱり心配するかもしれないけどさ・・・」
フルートは、ゼンに向かってにっこり笑って見せました。
「でも、信じて見守っていてほしい、って――ぼくは言いたいんだ」
ゼンはそれを聞くと、まじまじとフルートを見つめ、ふいに笑顔でうなずいてフルートの肩を抱きました。
「おう。そんなら俺も言ってやるよ。俺たちは絶対に死なない。金の石を信じて戦って、必ずデビルドラゴンをこの世界から消し去ってみせる、ってな」
「ワンワンワン!」
ポチも空を飛びながら元気に吠えました。まったくそのとおり! と言っているのです。

フルートは首から金の石のペンダントを外すと、それをポチの背中に置き、その上に自分の手を載せました。
「ぼくは金の石を信じる。仲間たちを信じる。・・・もう迷わない」
ゼンが心得て、フルートの手の上に自分の手を重ねました。
「俺も誓うぜ。必ず最後まで一緒に戦う。絶対におまえたちを死なせたりしない。・・・もちろん、自分が死ぬ気もないぜ」
「ワンワン! みんなで戦いましょう! そして、デビルドラゴンを倒しましょう!」
ポチが言いました。その背中に金の石の感触とフルートたちの手のぬくもりが伝わってきます。
「がんばろう!」
とフルートが言いました。
「おう!」
「ワンワン!」
ゼンとポチがすぐさま応えます。

魔の森のさらに西の荒野に、夕日が沈んで行こうとしていました。太陽が投げかけてくる最後の光が、子どもたちの姿を金色に染め上げています。
まばゆいばかりの夕焼けの中を、ポチとフルートとゼンは、シルの町へと飛んでいきました――。

The End


(2005年7月23日/7月25日修正)



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