昇平てくてく日記3

中学校編

昇平3行日記・7

※全然3行で収まっていない3行日記。

11月8日(月)
 霧の寒い朝。でも、昇平は「自分で学校に行く」と自転車で登校していった。
 ところが、間もなくの副担任の岩沢先生から、「昇平くんが、クラスのみんなからいじめられるから音楽の授業に出たくない、と言い出して、詳しいことはお母さんから聞いてくれと言っているのですが」と電話がかかってきた。あちゃぁ。昨夜の話し合いで、ネットで「死ね」とか「うざい」とか言っているのは、まだ人間関係の未熟な子どもたちなんだよ、と教えて理解したのはいいけれど、そのために、学校の生徒全員が怖くなってしまったのね。生徒はみんな子どもだから。実際にはクラスでのいじめなんかは起きていないのに。
 とりあえず、授業は本人の意志に任せて無理させないでほしいと伝えて、昇平が帰宅してから、中学校のお友だちは昇平を昔から(人によっては保育園時代から)知っていて、ちゃんと受け入れてくれているから大丈夫なんだよ、と教えた。「ぼくは心配しすぎていたんだね」と昇平も納得。ただ、不安定になると、また心配が頭をもたげるかもしれないとは思う。
 とにかく嫌な場面やフレーズが頻繁にフラッシュバックするようで、かなりつらそう。そんなとき、嫌なことばを書いた相手に「早く大人になるんだよ」と祈ってあげることにしたようで、自分でそれを「瞑想」と名付けていた。口に出して言うときには、英語で「Please be polite.(礼儀正しくしてください)」と言うことにもしたらしい。自分なりの方法を模索中だが、夜は割とスムーズに寝られたようだった。

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11月9日(火)
 主人が1カ月半ぶりで半日の休みが取れた。昇進したのはいいけれど、本当に忙しくなってしまったなぁ。
 二階のファンヒーターが壊れたので買いに行き、ついでにラーメン屋に寄ったら、私の携帯に家の義母から電話。学校の昇平から家に電話があったが、私がいないとわかって切ったのだという。その後、昇平から連絡はなかったが、帰宅が遅いので心配になって学校に電話してみたら、下校直前にまた嫌なことを思いだして動けなくなり、学校を出るのが遅くなったのだとわかった。
 かなり疲れているようなので、勉強は英語の書き取り少しだけにして、あとは自由にさせたが、夜寝る前にまた不安定になって、落ち着いて寝るまでにしばらくかかった。

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11月10日(水)
 朝起きたときからまた落ち込む。ネットの嫌な書き込みを思い出してしまうのだが、話を聞いていると、ひとつ収まってもまた別の内容を思い出すという感じで、次々対象になる内容が入れ替わっている。小学校の頃に不安を強く感じたときに出現した症状に似ている。昔はウルトラマンの怪獣や身の回りのいろいろなものや本を怖がって、徹底的に排除しようとしたっけ。
 目にした書き込みの内容にショックを受けたのは本当だけれど、根本の不安は別のところにあるんだろうと思う。自分自身の存在への不安、世界や人々に対する漠然とした恐怖、学年全体をおおっている受験期特有の雰囲気とプレッシャー。そこに自閉のこだわりも絡むから、考えれば考えるほど、嫌な考えが頭から離れなくなるんだろう。
 安心させてもらえるのが今のところ私しかいないから、日に日に私への依存度が高くなっている。今朝すごく落ち込んだのは、昨日電話をかけても私とつながらなかったからだろう。「お母さんが学校について来て、ぼくの代わりにぼくの気持ちを話してちょうだい」とも言うので、「それは自分の口で言わなくちゃね」と言って、落ち着くのを待ってから学校へ送った。私は守りの場所であるけれど、100%ここに逃げ込んでしまっては外に出られなくなる。学校にも理解して助けてくれる人たちは大勢いるのだから、早くそれに気づいてほしいな、と思う。
 幸運なことに、スクールカウンセラーのA先生の来校日で、面接練習の予約が入っていたので、「A先生に話をよく聞いてもらって、アドバイスしてもらっておいで」と言って送りだした。約1時間の遅刻。

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11月10日(水)・続き
 4校時目にスクールカウンセラーのA先生と面談して、ずいぶん気持ちが落ち着いたらしい。一日学校で過ごし、かなり元気になって帰ってきた。
 夕方、A先生からもお電話をいただいたけれど、とにかく昇平の話をよく聞いてくださったらしい。きっと、昇平の気持ちを丸ごと受け止めてくださったのだろう。来週の水曜日にまた昇平の話を聞いていただくことになった。
 やっぱり、家族以外の人から受け止められることが、昇平には必要だったんだな、と思った。夜にまた、ちょっとしたことで落ち込んで混乱したけれど、今夜は割と短時間に整理がついて、落ち着くことができた。

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11月11日(木)
 今日は朝からすっきり起きてきて、落ち着いて朝食を食べ、自分で自転車で登校していった。
 嫌なことを時々思い出すことは続いていて、昼休みに学校から電話をかけてきたが、内容は「○○についての動画にどんなコメントがついているか、お母さんが確かめて」というものだった。以前見たときとやりとりが変わっているかもしれないけれど、自分で見ては、またショックを受ける可能性があるから見られない。かといって、そのままにしておけば、嫌だった記憶はいつまでも繰り返し浮かんでくる――というわけで、私に確認を依頼してきたというわけ。自分なりに、解決方法を探している。「ちゃんと確かめてあげるから、安心して午後の授業も受けなさいね」と言ったら、「わかりました」と言って電話を切った。
 昇平が帰宅してから、私の目から見た内容を伝えて一緒に話し合い、先にやりとりが荒れていた理由を考えた。本当に、ずいぶん落ち着いてきて、「あの程度のことで死ねとか言うのは、言い過ぎだよね」などと言えるようになっていた。表情も明るくなってきて、久しぶりで、テスト勉強もまともにやっていたので、こちらとしてもホッとした。

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11月12日(金)
 時折、嫌なことは思い出すようだが、だいぶ落ち着いてきた感じがする。嫌な記憶の場面の理解と整理も、徐々に始まっている。
 ただ、私が風邪をひいたようで、朝から頭痛とくしゃみ、鼻水。熱はないのだけれど体がだるくて、一日ぼーっとしていた。
 明日は親の会の芋煮会なので、早めに休んだ。

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11月13日(土)
 NPO法人りょうぜん里山がっこうへ芋煮会へ。体験型施設なので、食育スタッフさんに指導してもらって、子どもたちが材料を洗って刻み、スタッフさんが芋煮汁に仕上げてくれている間に、私たちは「サバイバルライス」作りに挑戦した。
 サバイバルライス(略してサバメシ)とは、大地震などの災害時に火も電気も使えなくなっても、アルミ缶2個と牛乳パックを使ってご飯が炊ける方法。煙は出るし、すぐ火が消えるしで、みんな大騒ぎだったけれど、最終的にはちゃんと食べられるご飯が炊けて、全員感激。芋煮汁もおいしかった。その後、子どもたちは一緒に遊び、大人もたくさんおしゃべりができて、大満足で帰ってきた。
 疲れてしまったのか、昇平は帰り道で不安定になったけれど、しばらく話をしたら落ち着いた。まだ時々落ち込むけれど、立ち直りは以前よりスムーズになってきた。
 そうそう。私の風邪も、芋煮会の間に治ってしまっていた。ひどくならなくて良かった。

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11月14日(日)
 午前中は家庭教師と、午後は私と、数学のテスト勉強。新しい内容に入ると急に嫌な記憶がフラッシュバックしてきて落ち込むけれど、わかり始めるとそれが落ち着く。やっぱり「不安」が要因だね。
 いろいろ話す中で、その出来事を整理していく。彼としては、ネット掲示板などですぐに喧嘩腰のやりとりが始まることや、通常ならどうということのない発言に対してすぐ「死ね」や「うざい」とコメントが返されることがショックだったわけだけれど、今夜はとうとう「なんだか、それをひどいと感じるぼくのほうが普通のような気がするんだけど」と言った。その通りなんだよ! 君のほうが正しい感じ方をしてるんだよ! と力を込めて答えた。他の大勢の人が、君と同じように、そういうのは嫌だと感じているんだよ、とも。
 明日はまた学校が始まるけれど、ネットでおもしろいギャグを見て大笑いしたからか、今夜はスムーズに眠りについた。

[10/11/15(月) 08:00] 3行日記

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