昇平てくてく日記3

中学校編

灯籠流し

 昨日は夏祭りがありました。
 旦那は残念ながら仕事だったので、私と昇平で出かけていって、屋台で買った焼きそばやたこ焼き、鶏の唐揚げなどを夕食にして、夜は花火大会を楽しんできました。


 花火の観覧席は河川敷公園です。開始を待っていると、目の前を灯りのついた灯籠がいくつも流れていきます。供養のために参拝者が川上から流しているのです。黒い川面を滑っていく黄色や赤の灯籠――とても幻想的な光景です。
 昇平は河原に寝転がってゲームをしていましたが、ふと聞いてみたくて尋ねてみました。
「明日は8月15日でお盆の中日だけど、その他に何の日になっているか知ってる?」
「んー、知らない」
 ゲームに夢中の昇平は気のない返事。そこで、話して聞かせました。
「明日は終戦記念日なんだよ。64年前に日本がアメリカに負けて、太平洋戦争を終わりにした日なの」
 昇平くらいの歳の子どもたちが兵隊になって戦場に出て行った話も聞かせました。わずか十五、六の少年兵が、片道分の燃料しか入れていない飛行機に乗って、敵の戦艦に突っ込んでいった特攻隊の話もしました。
 昇平は、広島、長崎に落ちた原爆のことは知っていましたが、特攻隊の話はよく知りませんでした。聞いたことがあっても、今までは、心に残るほどしっかりと理解できなかったのでしょう。神妙な顔をして「戦争は怖いね」と言い――

 それから、顔つきを改めて尋ねてきました。
「だけどさ、そんな怖い話を、どうしてこんな綺麗で楽しいお祭りの時にするの?」
 率直に不思議がっている顔に、あ、ずいぶん大人になってきていたんだ、と思いました。
 灯籠は亡くなった人の供養をするために流すもの、その中には、64年前の戦争で亡くなった人たちも含まれているんだよ、もう戦争が二度と起きませんように、って想いを込めて流しているんだよ、と教えると、「ああ、そういうことか」と納得していました。
 夏祭りを、ただ綺麗で楽しいものと考えている若者は、会場に大勢いたことでしょう。
 そんな中、綺麗な祭りと怖い戦争の取り合わせに違和感を感じて、素直に納得してくれた昇平を、嬉しく思いました。


 夜空に花火が次々に開きました。
 大勢の人が、歓声を上げながら眺めています。
 こんなふうに、みんなが毎年夏祭りを楽しめますように。この平和がいつまでも続きますように。
 光の花を見上げながら、そんなことを考えていました。

Hanabi

[09/08/15(土) 23:19] 家庭

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