昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

トラブル続出・7〜話し合い〜

「家庭で何ができるだろう」と考えたとき、お友だちとの関わりについては、学校にお任せするしかなかった。
うちは本来の学区の外から通学している関係もあって、協力学級の子どもたちのことはほとんど分からない。名前を聞かされても、どの子なのか、どこに住んでいる子なのか、それもよく分からない。だから、子ども本人やそのご家族に会って、直接お詫びを言ったりお礼を言ったりすることは難しい。
では、私には何ができるか。
それが、「トラブル続出・3〜家庭でできること〜」でも書いた、「死ね」や「殺してやる」あるいは自分の落ち度を強く反省するときに出る「殺してください」のことばの置き換えだった。

もちろん、今までだって、こういう言葉づかいを容認してきたわけではない。折に触れ、それは怖いことばであること、言ってはいけない場面や相手が非常に多いこと(たとえ、友だち同士の間ではしょっちゅう口にされることばであっても)、まして怒って大声で言うようなことばではないこと・・・は教え続けてきたつもりだった。けれども、興奮すると、昇平の口からは、やっぱりこのセリフが飛び出す。言うことを禁止するだけでなく、そのときの昇平の気持ちに合ったことばを教えて、置き換えていく必要がある、と感じたのだった。

学童に迎えに行った帰り、車を発進させる前に、昇平と話し合いの時間を持った。まず、大事な話をしたいから、音楽もゲームもマンガ本も話が終わるまで待っていてほしいと言ってから、今回の下校のトラブルを、先生から聞いてお母さんも知っていることを告げた。たちまち、はっとした顔になってうつむく昇平。そこで、昇平が反省したこと、帰りの会でみんなに謝ったこと、それ以降は騒いだり「殺してやる」と言わなくなったことを誉めた。これは、本当に偉いと思う。ちゃんと自分から責任をとって、その後はちゃんとルールを守っているわけだから。

それは認めた上で、「お母さんにはね、ずっと気になっていることがあるんだよ」と話し始めた。
「昇平くんが昔と比べて、『殺す』とか『ぶっ殺してやる』とか『やっつけてやる』とか言うことが、だんだん増えてきたような気がするんだ。それから、自分が悪いことをしたと思うときに言う『ぼくを殺してください』もそうね。・・・森村先生もずっと言っていたよね。人が死ぬっていうことは、実際にはものすごいことなんだよ。とてもとても大変なことなの。簡単に死ねとか殺すとか言っていいような、そんなことじゃないんだよ」
それから、具体的な例をあげて話した。「殺すぞ」と言われたときに、言われた人がどう感じるか。周りで聞いている人がどんなふうに感じるか。
「昇平くんは本当は悪い子?」
「ううん」
「違うよね。だけど、『殺すぞ』なんていっている子のことは、言われた人も、周りの人も、『なんて怖い、悪い子だろう』って感じちゃうんだよ。そんなふうに思われちゃって、昇平くんはいいの?」
「いやだ」
「嫌だよね。だから、そんな怖いことばづかいはしないでほしいんだ」

昇平はどんどん下を向いていって、小さくなって話を聞いている。だけど、まだここでは終われない。もうひとつ、大事な話がある。
「昇平くんがよく言う『ぼくが悪かったです。ぼくを殺してください』ってのも、そうなんだよ。とっても悪かったな、っていう気持ちで言っているのは分かるんだけどね、でも、これも昇平くんにとってはものすごく怖いことばなの。お母さんはよく、『悪魔がどこかで聞いていて、それじゃその願いを叶えてあげましょう、って昇平くんの命を取っていっちゃうかもよ』って言っていたけどね、悪魔じゃなくても、本当にそうなっちゃうかもしれないんだよ。この世の中にはね、変な人や怖い人もいっぱいいるの。その中には、いつも誰かのことを殺したくて殺したくてしかたない人もいるんだよ。うん、怖いよね。でも、本当だからしかたないんだ。だから、時々学校からも『変な人には気をつけてください』ってお知らせが来るでしょう? 全然知らない、何も悪いことをしていない子どもを、いきなり刺して殺しちゃった人も、本当にいるんだよ。こういう人が近くにいて、たまたま昇平くんが『殺してください!』なんて言ってるのを聞いたらどうなるだろうね? 『それじゃちょうどいい。望み通り殺してあげよう』って考えるかもしれないよ。・・・昇平くんは、本当に殺されたい?」
ぶんぶんぶん、と激しく首を振る昇平。心持ち顔が青ざめている。怖いよね。本当に怖いよね。だけど、これが今の日本の現実だから、やっぱり知っておかなくちゃいけないんだよ。
「分かったね。『殺してください』も言わないようにしようね。・・・あのね、この世の中にはね、昇平くんの気持ちを言うのにちょうどいいことばが、もうちゃんとあるんだよ。『殺すぞ』っていうのは『やめろ』とか『そんなのイヤだ』って言えばそれで通じるし、『殺してください』は『ごめんなさい、もうしません』で通じるんだよ。そんなふうに、言っても大丈夫なことばに変えていけるように、がんばってほしいんだ。その場面でなんて言っていいのか分からなくなったときには、お母さんたちも昇平くんに正しい言い方を教えてあげるからね」
「はい、わかりました」神妙な様子でうなずく昇平。

最後に、下校途中でお友だちに無理を言わないこと騒がないこと、「殺すぞ」などの怖いことばを言わないこと、「殺してください」も言わないこと(代わりに別のことばを使うこと)を確認して、この話し合いは終わりになった。

[05/06/05(日) 10:23] 学校 日常

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