昇平てくてく日記

幼児〜小学校低学年編

衝動買い

今日は彼岸の中日なので、午前中、子どもたちと一緒に墓参りに行った。
さて、帰ろうかと言っていたら、少し離れた寺社の方角からカラオケの音が聞こえてきた。そういえば、あそこは彼岸の中日が祭日だった。規模は小さいけれど露店も並ぶ。そこで、車で回り道してお祭りをのぞきに行った。
綿アメ、金魚すくい、クレープ、焼きそば、おもちゃにたこ焼き。定番の露店が並んでいる。ただ、時間が早くて、どの店もやっと始まったばかり、という雰囲気だった。
昇平とお兄ちゃんを連れて歩くと、昇平は目をきらきらさせて店を一軒ずつのぞいていく。金魚すくいをしたいと言ってきたが、金魚はどうしてもすぐに死なせてしまうので、それだけはあきらめてもらった。
たこ焼きを買って、じゃがバターを買って、唐揚げを買って・・・う〜ん、やっぱり食べ物中心になるな。
昇平はおもちゃの露店の前で釘付けになっていた。大好きなビーダマンの箱を手に「これがいい!」。
はっきり言って、こういう店の商品は、定価よりはるかに高い価格になっている。まあ、それも楽しみ料のうちと思えば、それはそれで満足できるかもしれないけれど。昇平が選んだのは1300円の商品。これを買うと、彼のお小遣いはほとんどなくなってしまう。
「それでもいいの?」と聞くと、「それでいい。後で払うから」と言う。
それならば、とビーダマンを買って、母が立て替え払いしておいた。

ところが、もう少し歩いていくと、その先に、昇平が大好きなキャンディ屋があった。何種類ものキャンディやガムやラムネ菓子が並んでいて、好きに器にすくい取って、重さで量り売りするのだ。それを見たとたん、昇平はおもちゃを買ってこづかいがなくなったことを、激しく後悔し始めた。「買わなきゃよかった!」と。
どうしても店の前から動かないので、お兄ちゃんの分と一緒と言うことにして、母が買ってやることにした。好きなお菓子を選んでいる間、昇平はにこにこ顔だったが、いざ買ってもらうと、急に支払いが気になってきた。
「ぼく、お金をどうやって払えばいいの?」
「こっちのお菓子はお母さんが払ってあげるよ。でも、ビーダマンのお金は家に帰ったらお母さんに返してね」
「・・・ぼく、そうすると12円しか残らなくなっちゃう。どうすればいいの?」
昇平はつい昨日、自分の全財産を財布から出して計算したばかりだったので、自分の所持金を覚えていたのだ。
「でも、お小遣いがなくなってもいいから買いたい、って言ったのは昇平くんだよ」
と言うと、昇平が泣いて怒り出した。
「ぼく、これいらない! こんなの買わなければ良かった! こんなの捨ててやる!」
この衝動性は、やっぱりADHD特有のものなんだろうね。見て「いいな」「欲しいな」と思うと、もうそれだけで頭がいっぱいになってしまって、要求をセーブできなくなってしまう。そして、後で少し冷静になると、衝動的に買ってしまった自分自身を後悔するようになるんだよね。
お祭りのたび、どこかに買い物に行くたび、くり返される昇平の行動だ。

でも、母も絶対に昇平のおもちゃ代をかわりに払ってやったりはしない。自分で買ったものだもの。自分で責任をとらなくちゃね。
「ぼく、もう絶対に買い物しない! お祭りになんて行かない! これのおかげでお金がなくなったんだ。こんなのいらない、捨ててやる!!」
と昇平は怒り続ける。
そこで、家に着いてから、車の中で母は昇平に手を出して見せた。
「それじゃ、そのビーダマンをお母さんにちょうだい。そうしたら、1300円は払わなくていいから」
えっ、というように、昇平がためらった。
「・・・そうしたら、お母さんはそれをどうするの?」
「お母さんの友達の子で、欲しいって言う人がいたら、その人にあげるよ」
と答えると、昇平はとまどいながらも、しっかとビーダマンの袋を握りしめなおした。こづかいがなくなるのは辛い。でも、そのビーダマンもやっぱり欲しかったのだ。
そこで、昇平に尋ねてみた。
「昇平くんはなにがそんなにイヤなの?」
「これを買っちゃったから」
「ビーダマンを買ったのが悲しかったの? 変だよね」
「お小遣いが12円になっちゃったから。ぼく、どうやってお小遣いをためたらいいの?」
「お手伝いとか、するしかないね。ここにある、このゴミを家まで運んでちゃんと捨ててくれたら、お手伝いのごほうびに50円上げるけど?」
「えー、50円〜!? 100円がいい!」
「そんなふうにお手伝いのごほうびをそっちが決めるのはおかしいよ。イヤならやらなくていいです」
「ゴミを運んだら60円ちょうだい・・・」
「やらなくてけっこうです」
「やります。50円でいいです」
「はい、じゃお願いします」
というわけで商談(?)は成立し、昇平は墓参りで出たゴミを家のゴミ袋まで運んでいった。
その後、部屋に行ってからビーダマン代1300円を母に支払い、お手伝いのごほうびの50円をもらって、なんとか気持ちを収めていた。

その後、昇平は怒ったような決心したような顔でこう言った。
「ぼく、これからはもう買い物に行かないよ! お祭りには二度と行かない! スーパーにも行かない! ゲームセンターにも行かない! 絶対に行きません!!」
「あら、どうして?」
と聞いてみた。
「だって、お金がなくなるんだもん!」
どうやら、自分が後先考えずに金を使ってしまう性格だと気づき始めたらしい。
そこで、こう話して聞かせた。
「そうだね。昇平くんは、これがいいな、欲しいな、と思うと、ものすごくそれが欲しくなっちゃって、それを買ったらお金がなくなるとか考えられなくなっちゃう性格なんだよね。欲しいな、と思っても、本当にそれを買っていいかどうか、よく考えなくちゃいけないよね」
「ぼく、もう絶対に買い物についていかない! だって、一緒に行くと、見たものが買いたくなっちゃうから!」
ほほう。そこまで自己分析できましたか。偉いぞ。
「それじゃね、こうしよう。昇平くんが今日みたいに、何かがものすごく買いたくなったときには、お母さんが声をかけてあげるから。ぼくが使えるお金は○○円だよ、本当に買っていいの? って。そう言われたら、昇平くんは、それが本当に欲しいのかな? 買っていいのかな? って考えてね」
「わかった」
そう返事をして、昇平はやっと落ちついて、隣の部屋でビーダマンの組み立てに取りかかった。
高い買い物だったけれど、できあがったビーダマンはかっこよくて、昇平は満足そうだった。

   ☆★☆★☆★☆

ADHDを持っていると、買い物に関する衝動性をコントロールするのは、子どもも大人も大変なことが多いようだ。社会人だと、支払い能力を考えずにカードで買い物してしまい、後からその支払いに苦労することもあると聞いている。
買い物に行かない、そういう場所に近づかない、というのも立派な予防法ではあるけれど、一番大事なのは、「欲しい!」という衝動が起こった時、それをコントロールできる力を自分の中に育てていくことなんだろう、と私は思う。
はっきりいって、時間はかかる。これからも、きっとまた昇平は衝動買いをして、そんな自分に怒って泣くこともあるだろう。でも、少しずつ、自分の欲求に打ち勝てる強い心を育てて行けたらいいよね。
ね、昇平。

[05/03/20(日) 13:57] 日常

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